冷蔵庫にはいつもプリンを

小説の感想や本に関する話題。SF、ファンタジー成分多め、たまにミステリ、コミック

【感想】佐藤多佳子『シロガラス』1〜3

親戚の子どもに買ってあげたのだが、年齢的にやや早過ぎた(小学校低学年)ので自分で読むことにしたもの、児童文学もなかなか面白い。

作者は高校陸上部が舞台の『一瞬の風になれ』をはじめとする青春小説で有名だが、もともと児童文学でデビューしたということで、初のファンタジー作品で原点回帰といったところ。

シロガラス 1パワー・ストーン

シロガラス 1パワー・ストーン

 

白烏神社の神事である子ども神楽、その担い手として神社で生まれ育った千里や星司に、新たに礼生たち4人の同級生が加わることに——

児童文学としては(おそらく)珍しい(大人を含めた)多数の視点で語られる群像劇。

性格も学校での立ち位置も各人各様の6人の少年少女たち。単なる良い子でも無くかといって悪い子でも無い、ごく普通のしかし個性的な子供たちとして描かれる彼らの姿は社会性を帯びつつある学校での振る舞いも含めてリアリティを感じさせる。

物語の幕開けとなる本作ではやや丁寧過ぎると感じられるほど彼らの日常が描かれる。まだるっこしさを感じなくもないが、それは大きく変化していくと思われる今後の物語の基礎固めとして必要なプロセスなのだろう。 

鶴田謙二の手になる美麗な表紙イラストでは千里が前面に描かれているが、物語では6人の少年少女みなが動揺の重みで描かれる群像劇である。敢えてこうした紙幅をとる形式としたのは登場人物の好き嫌いで物語を読みがちな子どもたちに受け入れられるための創作上の試みだとするとなかなか興味深い。 

シロガラス(2)めざめ

シロガラス(2)めざめ

 

青い光を帯びた星明石(ほしあかりのいし)に触れ失神した少年少女たち。それ以来彼らの周りで不思議な現象が起こるが…

武術が得意で男っぽくさっぱりした性格の千里、生き物好きでマイペースな星司、甘えん坊で気が弱いところのある美音、クラスのボス的存在で負けず嫌いだが母親には逆らえない礼生、クールでお洒落だがどこか斜に構えた有沙、理科や算数で才能を見せるが運動はからっきしな数斗——と、個性的な6人が副題のとおり能力の「めざめ」に対してときに動揺しときに冷静さを見せそれぞれの外面ではわからない内面性が深掘りされていく。

「能力」に直面し、彼らが驚き恐れそれをどう扱ってよいかわからず戸惑う様子を見るとそれは「成長」のメタファーなのかもしれない。

シロガラス 3 ただいま稽古中

シロガラス 3 ただいま稽古中

 

超常的体験の中で能力の秘密が少年少女たちに告げられる。ある者は能力を理解しようと試み、ある者は恐れ躊躇するものの少しずつ行動を始める。

能力と向き合っていく過程では6人の少年少女の内面に変化が生じ、秘密を共有することで彼らの関係が変化してゆく。

そうした過程は巧みで読ませるが、あくまで目線が子ども達なので物語の方向性がなかなか明かされ、もどかしく思っていたところ本作の最後でやや唐突に衝撃的事実が明らかになる。続刊は今年中とのことだが物語の加速を期待したい。