冷蔵庫にはいつもプリンを

小説の感想や本に関する話題。SF、ファンタジー成分多め、たまにミステリ、コミック

2015年6月に読んだ本

やや世知辛い話になるが、四六版単行本というのは価格がそこそこする分その満足度のハードルも高くなる。

カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』はかけた時間とお金以上の読書体験ができた。一般の読者にとって読むということはどういうことを意味するかを、この作家が深く理解しているからだろう。

若竹七海の〈探偵・葉村晶〉シリーズはおもしろく一気に読んだ。各タイトルの発表間隔が5年以上空いていて作品時間が現実と連動しているので、ネットや携帯電話、カメラなどハイテク機器が時代を表していて興味深く、内容もサイコサスペンス調あり名探偵が登場する本格調もあり、正統ハードボイルドありと時代時代の変遷が見れ取れる。

2015年6月の読書メーター
読んだ本の数:10冊
読んだページ数:3873ページ
ナイス数:123ナイス

アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ文庫)アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
地中海に面しジェネラルが統治する軍事独裁国家を舞台に一癖もふた癖もある憲兵少佐がときに探偵役となって事件に挑む。 最後にあっと言わせる「良心の問題」と「獅子のたてがみ」が甲乙つけがたくベスト。「うまくいったわね」はロアルド・ダールの短編を彷彿とさせる。近世イタリアを舞台に密室犯罪と権謀術数の駆け引きが面白い時代ミステリ「玉を懐いて罪あり」も。
読了日:6月30日 著者:トマス・フラナガン,宇野利泰(訳)
忘れられた巨人忘れられた巨人感想
霧が立ち込め人々の記憶を奪う古のイングランド。アクセルとベアトリスの老夫婦は長く暮らした穴倉の村を離れ遠くに暮らしている息子のもとへと旅立つ。ファンタジーということでトールキン作品との相同は何箇所も見つけられたがその元ネタであるケルト神話方面には疎いので作中のモチーフが何を意味するかわからなかった点も(縛られた乙女、川下りの試練、黒後家とは?) 老夫婦の互いを気にかける姿は胸をうち、長く連れ添った人の間に通じる会話のテンポも素晴らしいが。最後のシーンはやはりギリシア神話のオルペウスの暗喩だろうか。
読了日:6月23日 著者:カズオイシグロ,KazuoIshiguro
水底の棘 法医昆虫学捜査官水底の棘 法医昆虫学捜査官
読了日:6月17日 著者:川瀬七緒
シンクロニシティ 法医昆虫学捜査官シンクロニシティ 法医昆虫学捜査官
読了日:6月16日 著者:川瀬七緒
紅霞後宮物語 (富士見L文庫)紅霞後宮物語 (富士見L文庫)感想
舞台は中華を彷彿とさせる帝国。主人公は三十路を過ぎた女将軍、……だったが突如後宮入りすることに。元同僚のイケメンがあれよあれよというまに皇位を継承してしまい、戦乱が治まり出世のチャンスも無いだろうと誘ってきたというのが面白い。一見ロマンス色多めのファンタジーだが、二人の関係がなかなか接近しないのは、よくありがちな互いにうぶだからという訳ではなく、大人の男女らしい理由なのはやるせない。一見のんびりと過ぎ去る後宮の日々を描くと思いきや、事件勃発とともに宮殿の外へと場面を移しその非情な結末にも驚かされる。
読了日:6月13日 著者:雪村花菜
さよならの手口 (文春文庫)さよならの手口 (文春文庫)
読了日:6月13日 著者:若竹七海
悪いうさぎ (文春文庫)悪いうさぎ (文春文庫)
読了日:6月11日 著者:若竹七海
足摺り水族館足摺り水族館感想
著者の(商業)第一作品集。後の作品の原型がこの作品集に多く見られる。表題作や「完全商店街」は後の作品の多くに見られる探索&迷いもの。「計算機のこころ」や「TAKUAN DREAM」(『蟹に誘われて』収録)に通じる道具もの「マシン時代の動物たち」、「大山椒魚事件」(同)や傑作「ニューフィッシュ」(『枕魚』収録)と同じく「君の魚」は航海冒険譚。フランスを舞台とする「冥途」と異様なタッチの「イノセントワールド」は他の作品に見られない独特の雰囲気をもち、前者は奇妙な時間感覚が印象に残りフランスパンが食べたくなる
読了日:6月10日 著者:panpanya
依頼人は死んだ (文春文庫)依頼人は死んだ (文春文庫)
読了日:6月9日 著者:若竹七海
エラスムスの迷宮 (ハヤカワ文庫SF)エラスムスの迷宮 (ハヤカワ文庫SF)感想
テレーズは長い除隊生活から復帰し地球統一政府守護隊員としてエラスムス星系に派遣される。そこでは創建者の一族からなる上流階級が水の供給をコントロールすることで大多数の年季奉公人を〈負債奴隷〉として支配する社会を築いていた。テレーズは彼女の元上官で友人のビアンカの不審死と、星系で何が起こっているか調査を始めるが…。別名義での長編と同様、豊富な背景設定で状況把握に苦労するが、ミステリ仕立ての本作ではそれが若干プラスにはたらいている。とくに後半部での誰が信用できるかわからない現実崩壊感覚は巧い。P・K・ディック賞
読了日:6月8日 著者:C.L.アンダースン

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