冷蔵庫にはいつもプリンを

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吉川優子の涙が意味するもの 〜響け!ユーフォニアム #11 「おかえりオーディション」より

顧問の滝とトランペットの高坂麗奈の父親同士が友人ということで滝のオーディションの評価に不信が広まり、コンクールを控えた部内の雰囲気が悪化する。
滝はオーディションの結果に不満のある者を対象にもう一度オーディションを行うことを部員に告げる。麗奈と結果に満足しない中世古香織はソロリードを巡り再びオーディションに臨むことに。

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オーディション結果に関する噂を流したり、過剰に香織に心酔する吉川優子。彼女に対するこれまでの視聴者の評価は、比較的ハードな展開のある物語の緩急に必要な悪役か、あるいは上級生につきまとうホモソーシャル的(ポリティカルコレクトレスを恐れずに言えば「女子校的な」と言っても良い)な「こじらせキャラ」といったものだろう。あの馬鹿馬鹿しく見える大きなリボンと女子を戯画化したかのようなキャラクターも含めて、私もこれまではそう思っていた。

 

本エピソードの中盤、優子は麗奈に対して中世古に最後のチャンスを与えて欲しいと頭を下げる。まがりなりにも吹奏楽をやっていれば演奏の善し悪しはわかるだろうし、実力の世界ということも承知であるだろう。ある意味なりふり構わない行為であり、その意味では(本人は無自覚であったにせよ)悪い噂を流し誹謗中傷するというのも同様であった。

 

しかし考えてみてほしい。とくに大きな目標や展望もなく学校生活を過ごす「普通の」高校生にとって、自ら憧れる存在(理想の姿といっても良い)を見いだし心酔するという体験の意味を。人生の短い一時期にそうした一生の体験にも相当する出会いがある人は実際そう多くは無いだろう。

 

優子にとり理想像(=香織)を中心とする完璧な世界、それが突如入ってきた侵入者——優子から見た麗奈はそのような存在だろう——によって揺らぎ、香織が「不当な扱い」を受けることは香織に重ねた自己のアイデンティティーに関わる危機となる。
終盤で香織がオーディションの結果を受け入れ(優子の意思に反し)麗奈がソロを吹くことに同意すると、優子は人目をはばからず声をあげ泣く。それは香織を中心にまわる衛星としての自分、他者を理想像として重ねる自分との決別にほかならない。