冷蔵庫にはいつもプリンを

小説の感想や本に関する話題。SF、ファンタジー成分多め、たまにミステリ、コミック

2014年に読んだ本 《コミック》

237冊。ライトノベルをほとんど読まなかった分、コミックが激増。
10年ほど前ならマンガ喫茶で済ませていたような10巻超の需要もKindleやBOOK☆WALKERのセールでまとめ買いしてタブレットでまとめ読みという読書スタイルに変わった。
見開きやななめ読みなど紙の本には明確に劣る部分もあるものの、何百冊ものライブラリを300gに満たないデバイスで自由に持ち歩けるメリットが勝った。
 

九井諒子 『ひきだしにテラリウム』(短編集)

相変わらずこのアイデアが尽きないが作品ひとつひとつの印象が薄くなるのがやや惜しい。
ひきだしにテラリウム

ひきだしにテラリウム

三部けい 『僕だけがいない街』(5巻まで)

作品に描かれる北国の世界が自分の少年時代時とオーバーラップして切ない気持ちに。

施川ユウキ 『バーナード嬢曰く。』(全1巻)

「名言」をネタにはじまった本作、一番の名セリフはむしろ登場人物から語られるのが面白い「ディックが死んで30年だぞ!今更初訳される話が面白いワケないだろ!!」

速水螺旋人 『大砲とスタンプ』(4巻まで) 

以前ヘミングウェイの「武器よさらば」を読み、戦時下の日常と死が隣り合わせの作品というものについて考えることがあったが、戦時下の占領地を舞台とする本作はまさにそんな作品。コメディ的な展開に笑っているうちに死人が出る。
大砲とスタンプ(3) (モーニング KC)

大砲とスタンプ(3) (モーニング KC)

沙村広明 『幻想ギネコグラシー』(短編集) 

長い長い連載を終えた作家が精も魂も尽き果て、満を持して発表した作品も往事の勢いに遥か遠くという例は枚挙に暇ないが、著者の場合はそうした不安は杞憂というものだろう。どこからこれだけのアイデアが湧き出てくるのか。
幻想ギネコクラシー 1

幻想ギネコクラシー 1

鈴木小波 『ホクサイと飯』(全1巻) 

ありあわせの食材から作るなんのことない日常飯なのにうまそうだが、主人公のエネルギーが何にも増して魅力的である。元気のないときにしばしば再読した、同人誌のかたちで発表された続編『ホクサイと飯 おかわり』も必読。
ホクサイと飯 (単行本コミックス)

ホクサイと飯 (単行本コミックス)

杉浦日向子 『百日紅』(上・下) 

今年(2015年)に劇場アニメ化ということで手にとった。江戸風俗研究家としても知られた著者が遺した最長の連作集。文化文政時代を追体験できる。
百日紅 (上) (ちくま文庫)

百日紅 (上) (ちくま文庫)

荒川 弘 『百姓貴族』(3巻まで) 

心とアタマが疲れているときに、字が比較的多めのエッセイ漫画というのはどうかと思ったが意外に合う。
百姓貴族 (3) (ウィングス・コミックス)

百姓貴族 (3) (ウィングス・コミックス)

 いけだたかし 『34歳無職さん』(5巻まで) 

冬の日差しのような白を基調とした画面構成、そこを流れるスローな時間に癒された。

小原 愼司 『地球戦争』(4巻まで) 

著者の代表作「二十面相の娘」でやや消化不良と感じたテーマ「少年少女の成長と自立」が本作では無理なく語られている、作中の場面を切り取った銅版画風のシーンもよい。ほかに『二十面相の娘』、『コジカは正義の味方じゃない』も。
地球戦争 4 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

地球戦争 4 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

野村亮馬 『キヌ六』(全2巻) 

今年のベストを一作あげるとすると本作に尽きる。20世紀初頭に大英帝国がテクノロジーを爆発的に発展させた「もうひとつの2000年」という、前作『ベントラーベントラー』とは趣を異にする作品だが、サイバーパンクの再評価とスチームパンク成熟期の今こそ読むべき作品と思う。
キヌ六(1) (アフタヌーンKC)

キヌ六(1) (アフタヌーンKC)

キヌ六(2)<完> (アフタヌーンKC)

キヌ六(2)<完> (アフタヌーンKC)

平方イコルスン 『成程』(短編集)

匿名的な登場人物、本筋に絡んでいるのか絡まないのか皆目不明の会話、日常にそっと差し込まれる奇妙な行動や設定、そして読後にいつまでも残る後味。これが才能なのだと思う。最近電子書籍になったが、ミッチリ詰まったコマ割りを含めての作品なのでB4紙版を強くお勧めしたい。
成程

成程

福島聡 『星屑ニーナ』(全4巻)

前作『機動旅団八福神』(全10巻)は「攻殻機動隊SAC」や「機龍警察」にも通じるハードな世界観だったが、本作では一転表紙もカラフル、鳥山明の作品を思わせる世界に当初は戸惑う。読み進めるうちにどんどん流れる作中時間のスピードと行きつ戻りつする時間にめまいを感じる。

三宅 乱丈 『イムリ』(16巻まで) 

骨格はごくオーソドックスな貴種流離譚であり、ハーバードの大河SF「デューン」へのオマージュにもなっている。和洋折衷の独特の衣装デザイン、他作品にはみられない人物造形など興味は尽きない。

丸川トモヒロ成恵の世界』(全13巻)

80年代的なコメディの枠組みを流用しつつキャラクタ、設定ともにゼロ年代の作品としてアップデートされている。一見ご都合主義にも見える設定が最終巻に向けての緻密な伏線となっていることに気づき息を呑む。

樫木 祐人『ハクメイとミコチ』(2巻まで)

紙面にみっしりと書き込まれた世界に癒されキャラクタたちに元気づけられる。そしてお腹が空く。

近藤ようこ『五色の舟』(全1巻)

津原泰水『11 -eleven-』所収同名作の忠実なコミカライズだが、作者でしかなしえない「作品」となっていることに驚く。

吉田覚 『働かないふたり』(3巻まで)

ひきこもり兄妹の将来に一抹の不安を感じなくもないが、箱庭的世界の心地よさに浸る。
働かないふたり 3 (BUNCH COMICS)

働かないふたり 3 (BUNCH COMICS)

つばな 『第七女子会彷徨』(8巻まで)

電子書籍で再読。SF的な世界観や設定のユニークさと「女の友情」のある種のリアルさが共存する稀有な作品。それと講談社は版切している『見かけの二重星』 を電子書籍化してほしい。
第七女子会彷徨 8 (リュウコミックス)

第七女子会彷徨 8 (リュウコミックス)

ヤマザキマリ とり・みきプリニウス』(1巻まで)

この二人の合作と聞き、その意図を測りかねていたが、1ページ目で納得。中年男のたるんだあごの線をこれだけ美しく描ける作家はヤマザキマリをおいてはいないし、石積や日干し煉瓦の質感、路傍に転がる小石に至るまで無機物に確かな存在感を吹き込むのがとり・みきほど巧い作家はいない。

諸星大二郎『瓜子姫の夜・シンデレラの朝』

著者のグリム童話に着想を得た作品集『トゥルーデおばさん』『スノウホワイト』に続き読む。ほかに「妖怪ハンター」シリーズや「栞と紙魚子」シリーズなど諸星作品を随分と読んだ。

ジャン=ミシェル・シャルリエ/ジャン・ジロー『ブルーベリー 黄金の銃弾と亡霊』 

メビウスの別名義の西部劇コミックシリーズの翻訳。みっしりと書き込まれたアクの強い登場人物とじりじりと音が聞こえてくるような砂漠の情景にしばし時間を忘れる。
ブルーベリー [黄金の銃弾と亡霊]

ブルーベリー [黄金の銃弾と亡霊]

オノ・ナツメつらつらわらじ 備前熊田家参勤絵巻』

備前国から江戸への参勤交代を、はっきりとした線で描かれる頭身デフォルメのきいた人物とキャラクタ造形のリアルさのギャップが面白い。
つらつらわらじ(1) (モーニング KC)

つらつらわらじ(1) (モーニング KC)

 
季節変動でメンタルの調子が悪い時期がままあり、そういう時期にはストーリーのしっかりとある物語は受け付けず、『のんのんびより』や『ふらいんぐうぃっち』、『34歳無職さん』などのスローなコミック中心におのずと読書嗜好も変わった。そういう点でも作品の印象・評価の濃淡がはっきりした年だった。