冷蔵庫にはいつもプリンを

小説の感想や本に関する話題。SF、ファンタジー成分多め、たまにミステリ、コミック

2015年5月に読んだ本

もう6月も終わりなのに5月も無いが、感想を投稿するのをサボっていたのであわてて仕上げた次第。

当月の新刊は『ジーンウルフの記念日の本』一冊。いろいろ深読みもできるが異色作家短編集のような「奇妙な味」に連なる作品として読んだ。

『クリスタル・レイン』『天空のリング』はあまり取り上げられることのないSF作品だが、こうした翻訳SFの主流からちょっと外れた、昔懐かしい冒険SFを今風にアップデートした作品も良い。

 

2015年5月の読書メーター
読んだ本の数:15冊
読んだページ数:5379ページ
ナイス数:847ナイス

天空のリング (ハヤカワ文庫SF)天空のリング (ハヤカワ文庫SF)感想
機械と人類で構成される〈共同体〉の〈大移住〉後の混乱から回復した地球は〈統制府〉によって統一。遺伝子操作された複数の人間が一つの人格として行動する〈ポッド〉テクノロジーによって支えられていた。 フェロモンによるコミュニケーションと記憶共有によって5人の男女が統合された〈集合体〉が主人公。といっても超人格のようなものが存在するわけでなく、他人に対しては一人として振る舞うが自身はあくまで個性あるメンバーとして描かれる。この設定のため前半は描写がややゆっくりでテンポが悪いが後半は一気に読ませる。
読了日:5月31日 著者:ポールメルコ
プレゼント (中公文庫)プレゼント (中公文庫)感想
2人の主人公によるエピソードが交互に収録された短編集。フリーター葉村晶は行くところ事件に巻き込まれつつも探偵さながらの執着で真相に迫る。一方小林警部補は、刑事コロンボを彷彿とさせる飄々とした語り口で倒叙トリックに挑む。最終話では両者のエピソードがつながる趣向。どちらかといえば葉村晶、その切れ味鋭い人物評も「ロバの穴」にようなバブル崩壊後当時のすさんだ社会の描写もリアル。 名探偵が事件関係者を集める趣向が意外な結末を迎える「プレゼント」、葉村自身がトラブルに巻き込まれる「トラブル・メイカー」の2つをあげる。
読了日:5月29日 著者:若竹七海
泰平ヨンの航星日記〔改訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF レ 1-11)泰平ヨンの航星日記〔改訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF レ 1-11)感想
奇妙な名前の宇宙旅行家を主人公とする短編集。意思をもったコンピュータが支配する珍妙なロボット社会で最後に明らかになる正体に驚嘆する「第11回の旅」、天災の備えとして人体複写が普通になった社会でのアイデンティティの揺らぎに空恐ろしさを感じる「第14回の旅」、時間移動による人類の改良計画が官僚主義の無責任と怠惰により滅茶苦茶になる「第20回の旅」は他に類の無い傑作。『短篇ベスト10』にも収録され評価の高い「第21回の旅」は今風に言えばポスト・ヒューマンものだろうか着眼点は良いものの長過ぎて読むのに難儀した。
読了日:5月26日 著者:スタニスワフ・レム
クリスタル・レイン (ハヤカワ文庫SF)クリスタル・レイン (ハヤカワ文庫SF)感想
孤立した植民惑星上に築かれたスチームパンク的テクノロジーをもつ世界を舞台とする冒険SF。おもな舞台となる世界がカリブ海地域の文化を継承していたり、人類の隷属化をもくろむ異星人が支配する帝国がアステカ文明を模倣しているのは斬新。過去の記憶を失っているが家族を愛するジョン、帝国の侵略から人々を守るべく奔走する女首相ディハナと彼女を支えるハイダン将軍、空から落ちてきた戦闘サイボーグのペッパー、ジョンと行動をともにする敵のスパイだがなぜか憎めないオアシクトルと主要登場人物だけでも多彩で生き生きとしている。
読了日:5月25日 著者:トバイアスSバッケル
第二の地球を探せ!  「太陽系外惑星天文学」入門 (光文社新書)第二の地球を探せ! 「太陽系外惑星天文学」入門 (光文社新書)感想
太陽系外の惑星は近いものでも地球から数十光年の彼方にあり、20年ほど前まで望遠鏡等の光学観測を用いて見つけることはできないと考えられてきた。それが〈補償光学〉で地球大気の影響を補正し〈ドップラー法〉や〈トランジット法〉などの間接法を駆使すれば、地上の望遠鏡からでも太陽系外の惑星を探すことが可能となる。のみならずそこに生物の住む可能性について手がかりを得ることができるという。天文学の中でもこの20年ほどめざましい成果をあげてきた分野の第一人者による一般向け解説書。豊富な図版と巻末索引もgood
読了日:5月21日 著者:田村元秀
ジーン・ウルフの記念日の本 (未来の文学)ジーン・ウルフの記念日の本 (未来の文学)感想
アメリカの記念日(祝祭日)になぞらえた18の短編。翻訳を読む限りとくに技巧を凝らした文体というわけではなく物語描写も平易で最初はするっと頭に入ってくるが、読み進めるうちに次第に違和感が増していき……最後は唐突に終わり煙にまかれたような気分に。これが作者の持ち味。大半が1970年代に発表されたものだが、どこか50年代の短編を思わせる懐かしさもあり、他の誰の作品にも似ていないものあり、少なくとも作者にとっては同時代性は重要なものではないのだろう。
読了日:5月21日 著者:ジーン・ウルフ
蟹に誘われて蟹に誘われて感想
先に『枕魚』を読んだが、この『蟹に誘われて』も作品のモチーフに共通点が多く双子のよう。例をあげると「アルバイトでの不思議な体験」「船に乗って出かける」「異界に迷い込むが動物に案内され目的を果たす」「目的不明の機械」といったところか。ストーリーの整合性やカタルシスよりもリアルなのに幻想的な画と夢の中のような物語の調和を楽しむべき作品。「大山椒魚事件」で抱えられたサンショウウオや、「計算機のこころ」でイルカの計算機がリーマン予想を解きながら「うーん」と唸っている様子が記憶に残る。
読了日:5月12日 著者:panpanya
オニクジョ (ヤングジャンプコミックス)オニクジョ (ヤングジャンプコミックス)感想
京都の大学に通う主人公。そのアパートの部屋に現れたのは「畳オニ」、これに隣人の謎の女子高生が関わってきて—— 敢えてジャンルづけするなら伝奇モノだろうか。どこか懐かしさを感じさせる独特なタッチの絵、幻想的な世界観に不気味かわいいクリーチャー、戦うセーラー服、そして毒を含んだ物語展開は著者の作品に共通するもの。連作形式とはいうものの短編作品でこそ真価を発揮する作家とあらためて思う。「金属のキミへ」は新鮮、こういうのも良いね。
読了日:5月10日 著者:阿部洋一
くらやみの速さはどれくらい (ハヤカワ文庫 SF ム 3-4)くらやみの速さはどれくらい (ハヤカワ文庫 SF ム 3-4)感想
暗闇がなぜ光より速いかと言えば暗闇は光より先にそこに行きついているからだ—— 主人公ルウは自閉症者だが、各種訓練を経て自立している。彼の職場に未治験の治療法が導入されることになり…。 自閉症は治療すべき障がいなのか、社会に十分適応できるならそれは個性程度のものではないかという中盤までの理解はそれも非〈自閉症者〉から見た押しつけなのではないかと揺らぐ。作中のイエスの〈池のほとりの病人〉のエピソードはひとつの解答である。普通小説のスタイルをとっているが異質な世界を体験するという意味で本作はSFなのである。
読了日:5月7日 著者:エリザベス・ムーン
シロガラス 3 ただいま稽古中シロガラス 3 ただいま稽古中感想
超常的な体験、そこで告げられた能力の秘密に少年少女たちは大いに戸惑いながらも少しずつ動き出す。能力と向き合っていくことで6人の少年少女の内面に変化が生じ秘密を共有することで彼らの関係が変化してゆく。そうした過程の物語自体が魅力的で一気に読めるが、伏線があまり明示されず基本的に直線的なプロットであることにやや退屈も感じる。だがそうした新たな関係性の構築を経て最後に再び提示される衝撃的事実と新たな謎の数々が今後の展開を期待させ興味は尽きない。
読了日:5月5日 著者:佐藤多佳子
ポム・プリゾニエール La Pomme Prisonniereポム・プリゾニエール La Pomme Prisonniere感想
猫、水辺のある風景、そしてスレンダーな女性を描くことでは右に出るものがいない鶴田謙二の最新作。……全編ほとんど裸なのは躍動感溢れる身体の美しさをより表現できるようにですよ? 水中や寝っ転がった姿勢で変幻自在の二つのおっぱいがただただ素晴らしい。眼鏡っ子の裸ももちろん素晴らしい。
読了日:5月5日 著者:鶴田謙二
あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)感想
「バビロンの塔」何度読んでも素晴らしい作品。天にそびえる塔とその社会はまるで目に浮かぶようだ/「理解」思考の仮想機械化とプログラミング。身振りと超越言語による戦い/「ゼロで割る」最先端科学はしばしば一般人の直観的理解を超えるがそれを逆手にとり世界が転倒するような事実に直面した数学者の孤独を描く/「あなたの人生の物語」言語はそれぞれの世界観や思考のあり方を規定するが、それが時間感覚にまで及ぶとどうなるか。異星人とのファーストコンタクト物語にとどまらずそれを通じて変容する個人の物語であることが著者らしい→
読了日:5月5日 著者:テッド・チャン
シロガラス(2)めざめシロガラス(2)めざめ感想
白烏神社の星明石に触れ失神した少年少女たち。それ以来彼らの周りで不思議な現象が起こるが…。副題のとおり「めざめ」に対し登場人物たちの各人各様の内面性が深掘りされていく。子供達が一様にそれをどう扱ってよいかわからず動揺する様子から、この「能力」というのは成長のメタファーなのだと気づいた。
読了日:5月4日 著者:佐藤多佳子
シロガラス 1パワー・ストーンシロガラス 1パワー・ストーン感想
白烏神社の神事である子ども神楽、その担い手として神社で生まれ育った千里や星司に、新たに礼生たち4人の同級生が加わることに——児童文学としては(おそらく)珍しい大人を含め多数の視点で語られる群像劇。性格も学校での立ち位置も各人各様の6人の少年少女たちは単純によい子でも無くかといって悪い子でも無い普通のしかし個性のある子供たちとしてよく描かれている。本作ではやや丁寧過ぎると感じられるほど彼らの日常が描かれるが、それは大きく変化すると思われる今後の物語に必要な過程なのだろう。
読了日:5月3日 著者:佐藤多佳子
隣のアボリジニ 小さな町に暮らす先住民 (ちくま文庫)隣のアボリジニ 小さな町に暮らす先住民 (ちくま文庫)感想
国際アンデルセン賞を受賞した児童文学作家、また本屋大賞の異世界ファンタジー『鹿の王』の作者として知られる著者の文化人類学者としての「もうひとつの顔」がよくわかる一作。 アボリジニはオーストラリアの先住民、著者は北部やエアーズロックで有名な内陸部に住む自然に根ざした伝統的な風習を守る人々ではなく、町に暮らす「隣の」人々に取材する。そこで語られるのは差別による苦難の歴史であり祖先からの伝統を次第に失っていく姿でもあり、西欧人が持ち込んだ生活に適応しつつも祖先伝来の地縁血縁によって異なる世界に生きる姿でもある。
読了日:5月1日 著者:上橋菜穂子

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