冷蔵庫にはいつもプリンを

小説の感想や本に関する話題。SF、ファンタジー成分多め、たまにミステリ、コミック

2015年4月に読んだ本

先月に続いて今月もたくさん読めた。
話題性では久住四季の数年ぶり非ラノベでの新作とケン・リュウの処女短編集
コミックでは初めて読んだpanpanyaが強烈な体験。掲載誌を変えリブートした鈴木小波『ホクサイと飯さえあれば』も良かった
既刊では、以前途中まで読んでそのままだったマイクル・フリン『異星人の郷』、デイヴィッド・ベニオフ『卵をめぐる祖父の戦争』が強く印象に残り、シリーズものでは支援BIS『辺境の老騎士』と似鳥鶏の動物園ミステリーの安定感が印象に残る。

2015年4月の読書メーター
読んだ本の数:19冊
読んだページ数:6143ページ
ナイス数:184ナイス

星読島に星は流れた (ミステリ・フロンティア)星読島に星は流れた (ミステリ・フロンティア)感想
東海岸ボストン沖にある孤島、数年に一度隕石が落ちるというその島に天文学者の呼びかけのもと7人の男女が集まるが… ミステリの醍醐味は、一点の隙の無い論理でなされた謎解きが視点を変えることで根底から覆る瞬間の快感にあると考えている。 本作では当初フーダニットとして提示された謎がハウダニットによりいちおうの解決をみるが、さらにホワイダニットとして思いもよらぬ真相が提示される。自分はあまり熱心なミステリ読者ではないが、すべての謎が収束する事件解決には思わず唸った。
読了日:4月2日 著者:久住四季
桐島教授の研究報告書 - テロメアと吸血鬼の謎 (中公文庫)桐島教授の研究報告書 - テロメアと吸血鬼の謎 (中公文庫)感想
見かけは白衣の美少女、中身はなんと大正生まれのおばあちゃん。だけどただのおばあちゃんではない、日本女性初のノーベル生理学・医学賞を受賞した天才科学者。マンガ・アニメオタク界隈で言うところのロ○ババア、何なら(CV:新井里美)としても良い。このとってつけたような設定がミステリの中で生きる、いわば科学者版安楽椅子探偵。 地下の研究所で研究にいそしむ彼女の代わりに世話役兼助手として駆け回るのは、夢と期待をもって大学に入学したばかりの初々しい主人公。→
読了日:4月4日 著者:喜多喜久
ダチョウは軽車両に該当します (文春文庫)ダチョウは軽車両に該当します (文春文庫)感想
動物園を舞台に飼育係が謎を解くミステリの第2作。なぜか女性(と動物)に好感を持たれる主人公はいつもの似鳥鶏。本シリーズは動物園という世界から想像もつかないハードな展開が特徴で、動物に関わるちょっとした謎がのちのち殺人事件にまで発展してしまう。真相の意外性も興味深い。
読了日:4月5日 著者:似鳥鶏
絶深海のソラリス (MF文庫J)絶深海のソラリス (MF文庫J)感想
日本列島を含む世界の沿岸部が「大海害」によって水没した世界、未知の鉱石のもつパワーで深海でも活動できる固有の特殊能力をもつ少年少女が日々の訓練により成長していくSF風味のライトノベル。前半の訓練所パートは登場人物たちの軽妙な会話が巧く面白い、他方後半はモンスターパニック&脱出もので、非常に凄惨かつハードな展開となる。前半の幕間として若干の伏線があるものの激しいギャップに戸惑う読者もいるかもしれない。
読了日:4月6日 著者:らきるち
ホクサイと飯さえあれば(1) (ヤンマガKCスペシャル)ホクサイと飯さえあれば(1) (ヤンマガKCスペシャル)感想
前作『ホクサイと飯』からさかのぼり大学入学で一人暮らしを始めた十代の山田ブンの貧乏飯でも高級グルメでもない食生活が描かれる。作品からいわゆる「お仕事もの」要素がなくなりやや不安だったが、毎回の飯のインパクトでまったくいつもの『ホクサイと飯』であった。北千住というどこか懐かしいたたずまいをもつ舞台の要素が加わり、生活感にリアリティが増したのも良い。お腹が空いた、だからとっておきの食材で飯をつくる、味わうシーンが無くともそれで十分旨さが伝わるのが素晴らしい。
読了日:4月6日 著者:鈴木小波
いなくなれ、群青 (新潮文庫)いなくなれ、群青 (新潮文庫)感想
地図に載っていない島、通称「階段島」そこの住人は島に来るまでの記憶がない。島の秘密は階段の先に住むという「魔女」が握っていると言われる。高校生の少年はかつて行動を共にしていた少女と出会う。少年にも少女にも島にやってくる前後の記憶が無い、どこまでもまっすぐな性格の少女は島のルールに逆らい島の謎を解き脱出する方法を探そうとするが……。 テーマは「成長と人との関わり」作品中盤まで少女の理解者で観察者である少年の願望とその理由は読者に語られないが。後半でそれが劇的なかたちで明かされる。
読了日:4月7日 著者:河野裕
ステーション・イレブン (小学館文庫)ステーション・イレブン (小学館文庫)感想
世界をおそった感染症で人類の90パーセントが滅んだ世界、生き残り、産業化以前に戻った人々の暮らし。災厄が起こる直前に急死したとある俳優の人生が、それに関わる登場人物たちが災厄の「その後」とともに描かれる。 本作の世界観はS・キング『ザ・スタンド』を彷彿とさせるがここでは未曾有の災禍の原因は追及されず、またカルトの描かれ方には同作へのアイロニーを感じた。→
読了日:4月8日 著者:エミリー・セントジョンマンデル
異星人の郷 上 (創元SF文庫)異星人の郷 上 (創元SF文庫)感想
14世紀、南ドイツに宇宙船が不時着、乗っていたのはバッタを思わせる異星人、中世のファーストコンタクト、村の教会の神父はパリで学んだ当時の知識人で人には言えぬ過去を持っている。読者は中世の人々と星々を旅してきたクレンク人の両方に現代人との共通性と異質性を見いだすだろう。(後編に続く)
読了日:4月10日 著者:マイクル・フリン
異星人の郷 下 (創元SF文庫)異星人の郷 下 (創元SF文庫)感想
本作のテーマは異質な知的生物が出会うとき相互理解は成立するのかというファーストコンタクトものではおなじみのものだが、この異質性と共通性がキーとなり異星人の一部が(読者のわれわれにも異質な)キリスト教的な世界観の中から次第に「よく生きる知恵」とでもいうべきものを見いだしていく点が感動的である。 いまだ暗黒時代のイメージの残る中世欧州に科学革命の時代から現代に通じる合理性がすでに見いだされる点もなかなか興味ぶかい。早川書房2010年ベストSF 1位作品。
読了日:4月11日 著者:マイクル・フリン
破獄 (新潮文庫)破獄 (新潮文庫)感想
戦前戦中に網走刑務所を含む4度の脱獄を果たした無期刑囚とそれを阻む刑務所看守の戦い。まるで怪人二十面相か怪盗アルセーヌ・ルパンのようだが驚くことに史実に基づくという。挿入される当時の刑務所や戦争の様子は興味深くはあるが同じような記述が目立ちやや冗漫で、事実を淡々と記述することで力強い印象のある吉村昭の良さが減じた印象。
読了日:4月14日 著者:吉村昭
ハナシがちがう!―笑酔亭梅寿謎解噺 (集英社文庫)ハナシがちがう!―笑酔亭梅寿謎解噺 (集英社文庫)感想
落語ミステリかと思ったら、落語家(見習い)が推理するミステリ。上方落語の古典をモチーフに話は進むがそれほど事件には関係しない。主人公は金髪アタマの元ワルだがそれを上回る師匠の横暴・理不尽さに思わず同情、芸の世界は厳しい。
読了日:4月15日 著者:田中啓文
辺境の老騎士2 新生の森辺境の老騎士2 新生の森感想
旅する老騎士とその一行、怪力無双の騎士と神出鬼没の元盗賊。さらに加わるは魔獣の首を求める女騎士と孤高の剣士。旅は前巻に続き北へと山谷を分け入るが前巻後半の漫遊記的なパターンは踏襲せず、女騎士の素性と絡めてなかなか読ませる。キャラクターが明快な分、類型的になりそうなものだがどの登場人物も生き生きとしている。もちろん本作の特徴である料理も相変わらず美味そうだ。
読了日:4月16日 著者:支援BIS
ハナシにならん!―笑酔亭梅寿謎解噺〈2〉 (集英社文庫)ハナシにならん!―笑酔亭梅寿謎解噺〈2〉 (集英社文庫)感想
前作のパターンを踏襲せず、主人公竜二の成長物語を前面に。その分事件やミステリ要素が薄まってしまったが次から次へと問題が起こり面白い。相変わらず梅寿師匠の理不尽さ無軌道ぶりが非道くてこれはもう笑うほかない。
読了日:4月17日 著者:田中啓文
卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ文庫NV)卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ文庫NV)感想
祖父によって「私」に語られる半世紀以上前の冒険。ドイツ軍が迫る戦火のレニングラードでとある事情により卵を探しにいく少年レフと「脱走兵」コーニャ。映画『戦場のピアニスト』や『スターリングラード』などの映画を彷彿とさせる圧倒的なリアリティで描かれる。飢えによる疲労、死の恐怖、おぞましい行為、……戦時下の描写にしばしば読むのがつらくなるが、物語の魅力が本を置くことを許さない。こうした前半部のリアリティが後半のフィクションをより一層生き生きとさせる驚き→
読了日:4月22日 著者:デイヴィッドベニオフ
西遊妖猿伝 西域篇(6) (モーニング KC)西遊妖猿伝 西域篇(6) (モーニング KC)感想
前半はキルク族を追う東突厥の部隊に挑む悟空、イリーシュカ、イリクを、後半は前巻に登場した鹿力大仙との戦いを描く。西域篇では唐土を離れ異国の地に入った悟空がその超人的な力を制限される(とは言ってもめっぽう強いのだが)ことでしばしばピンチに陥るのだがその分おもしろさは増している。三蔵たち他の一行はやや影が薄いものの、魅力的な脇役が複数のエピソードの中で離れては近づき退屈さとは無縁の物語も健在だ。巻末に収録されたスピンオフ作品「逆旅奇談」はミステリー仕立てで新鮮、〈西遊〉ワールドが広がる「異聞」は今後も期待。
読了日:4月24日 著者:諸星大二郎
枕魚 (書籍扱い楽園コミックス)枕魚 (書籍扱い楽園コミックス)感想
肩が痛むようになった「私」は新しい枕を求めて鹿児島県枕崎市へと向かう。そこではかつてある魚が枕として使用されていたという(表題作)。神奈川県鶴見漁港で奇妙な魚型の物体が水揚げされる、「私」は通常の魚の漁獲に影響を及ぼす物体の発生源をつきとめるべく船を出す(「ニューフィッシュ」)。 風景を構成するひとつひとつの要素、たとえば看板、家の塀、コンビニなど…は身近なありふれたものなのにそれらがコマの向こうに異界を現出させまるで夢の中でモノクロームの世界を彷徨う感覚になる→
読了日:4月26日 著者:panpanya
駄目な石 (書籍扱い楽園コミックス)駄目な石 (書籍扱い楽園コミックス)感想
帰宅途上の女子高生三人組、話題は卒業とともに結婚する「沖田さん」から、いつのまにか愛について考察となり、結論として沖田さんには堅い石を贈ることになり(表題作)……自分でも何を言っているのかさっぱりわからない。読者は突然女子トークのまっただ中に放り込まれ前後の脈絡が把握できない。個性を取り払ったキャラ造形もみっちりと詰まったコマ構成もこの作者ならではの魅力に変わるから不思議。会話のどこに着地するか皆目わからない妙なリズムと独特の言語感覚はある種の中毒性がある→
読了日:4月27日 著者:平方イコルスン
迷いアルパカ拾いました (文春文庫)迷いアルパカ拾いました (文春文庫)感想
楓ヶ丘動物園シリーズシリーズ第3弾。園の通用門近くに突如として現れたアルパカ。周辺の施設に問い合わせても素性がわからない。そうするうちに「美少女飼育係」七森さやの同級生が失踪、さらにアフリカ草原ゾーンに侵入者があらわれ…。謎が謎を呼ぶ物語はややご都合主義の感もあるが、それが気にならないのは謎の核心が動物絡みという物語の骨組みがしっかりしているからだろう→
読了日:4月30日 著者:似鳥鶏
紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)感想
「紙の動物園」「月へ」「結縄」異なる文化の相互理解の難しさを個人のレベルまで突き詰めた作品と読めた。「結縄」が(より多くの命が救われることで)単純な善悪を論じていないことも。「心智五行」では理解に到達するがそれはハードな交渉の結果であることも考えさせられる。「紙の…」「太平洋横断海底トンネル小史」「文字占い師」はいずれも歴史の闇を描く、「…小史」はハリイ・ハリスン『大西洋横断トンネル、万歳』の本歌取りと思うがあの楽天さは無く鉄道敷設の苦力の悲劇を連想(続く)
読了日:4月30日 著者:ケン・リュウ

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